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オホーツク海・北太平洋亜寒帯における海洋基礎生産減少の要因解明および海洋CO2吸収量への影響評価と予測 

研究代表者
三寺 史夫(北海道大学低温科学研究所:日本)

共同研究者
中村 知裕 北海道大学低温科学研究所:日本
西岡 純 (北海道大学低温科学研究所:日本
小埜 恒夫(北海道区水産研究所:日本)

津旨 大輔(電力中央研究所:日本)
Y.  Volkov(極東水文気象研究所:ロシア)
A.  Kruts (極東水文気象研究所:ロシア)
P.  Fayman(極東水文気象研究所:ロシア)

1. 研究の概要

植物プランクトンの増殖(基礎生産)は海洋の食物連鎖の基礎であるとともに、炭素を固定し二酸化炭素を大気中から除去するため、地球環境にとって重要なプロセスである。親潮域・北西亜寒帯域は植物プランクトンによる二酸化炭素吸収の効率が世界で最も高い海域であるが、近年基礎生産力が減少傾向にあることが指摘されている。これは、温暖化に対する応答である可能性が高い。そのメカニズムとして、(1)植物プランクトンにとって必須の微量元素である鉄の、オホーツク海からの流出量が減少すること、(2)降水量が増えて海洋表面の成層が強くなり、下層からの栄養塩供給量が減ること、が重要であると考えられている。仮に親潮から北西北太平洋の基礎生産力がゼロになれば、一年間に約0.3Gtの炭素固定能力を失うと見積もられている。これは全海洋が吸収する15%であり、日本全国の化石燃料消費量に相当する莫大な量である。したがって、わずかの減少でさえも影響が大きい。基礎生産力が減少しているのは日本近海であり、したがって、温暖化が基礎生産に与える影響に対し科学的根拠を持って答えることは喫緊の課題である。極東水文気象研究所の協力を得てロシア水域内の未公開データを含む大量のデータの解析を行うとともに、高解像度海洋生態系モデル、全球炭素循環モデルによる現在および温暖化時のシミュレーションを行うことにより、この問題を明らかにする。

2. 将来への展望

最終的な目標は全球の炭素循環モデルを改良し、実用的な予測につなげることである。変化に備えて適切な対策をとることは温暖化抑制とともに重要なことであり、基礎生産変動、炭素循環予測の高精度化は必須の課題である。そのためには、親潮域などの基礎生産力の長期変動と、海洋環境・物質循環との関係を明らかにすることがまず大切である。ロシアEEZ内を含めた長期観測データと、これまでにない高解像度海洋物質循環−生態系モデルを用いて、それらの関係を明らかにしていきたい。
鉄分は海水にはほとんど溶けないが、植物プランクトンが光合成をする際になくてはならない元素であり、栄養塩豊富な亜寒帯の海洋では、鉄分が生物生産を制御している。鉄分の起源は陸のため、従来は黄砂とともに海洋表面に飛来するものと考えられてきた。しかしアムール川にも大量の鉄分が溶けており、河川も有力な供給源との指摘がなされている。本研究は、アジア大陸から北太平洋にかけての大規模な物質循環過程と、CO2を含む炭素循環の接点を明らかにするとともに、水産資源変動予測の基盤を築く事を目指している