研究テーマ
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山岳氷河アイスコア からの古環境復元

drilling_ichinsky 氷河を円柱状にくりぬいて得られる試料(アイスコア)を分析すると、過去から現在までの気候や環境の変化を復元することがで きます。近年、身近な問題になってきている地球温暖化現象における人間活動の影響を正しく評価するためには、人間活動が活発になる前からの数百年間の環境 変動を明らかにする必要があります。

 北部北太平洋地域の気候は、十年規模の周期で変動していることが分かってきました。その周期的な変動は、様々な気候指数(たとえばPDO、PNA、AO など)によって示され、そのメカニズムについても議論されていますが、明らかになっていません。地球上の各地で計測されている気象データは、長いところで は百年間程度、殆んどの地域では数十年間程度の蓄積しかありません。また殆どの観測データは人間が居住している低地で観測されたものです。山岳氷河のアイ スコアは、数百年間の気温、降水量、大気組成などの変動を復元するために最も適したプロキシ(記録媒体)の一つです。

 アラスカのランゲル山頂上氷河、アラスカ山脈のオーロラピーク氷河、カムチャツカのイチンスキー山頂上氷河からアイスコアを採取し、分析を行っていま す。アラスカのアイスコアからは近年の降水量と森林火災の増加が明らかになってきました。カムチャツカのアイスコアからは、オホーツク海の海氷の変動、夏 の気温が数百年間にわたり十数年間規模の周期で変動していることが明らかになりました。

<成果論文>


SIMGA (Snow impurity and glacial microbe effect on the Arctic) プロジェクト

「北極域における積雪汚染及び雪氷微生物が急激な温暖化に及ぼす影響評価に関する研究」
(科学研究費補助金 基盤研究(S) 代表:青木輝夫(気象研)、2011年度〜2015年度
AWS
 北極圏における近年の急激な雪氷の融解を多くの気候モデルが再現できていない原因として挙げられる黒色炭素等光吸収性エ アロゾルによる積雪汚染と雪氷微生物による雪氷面アルベド低下の実体を明らかにすることを目的に、グリーランド氷床での気象・雪氷観測、札幌での積雪観測を行っています。
 2012、13年には、グリーンランド氷床にてキャンプを行い、AWS(自動気象観測装置)の設置、積雪観測、フィルンコアの採取を行いました。現在、フィルンコアの解析から、1970年代以降の環境変動を復元しています。
 2014年には、グリーンランド氷床、標高2100m地点で222mの浅層アイスコアを採取しました。現在、このアイスコアの解析から、100年間の降水量、人為エアロゾル組成の復元を行っています。

SIMGAプロジェクトウェブサイト

<成果論文>



グリーンランド南東ドーム氷床掘削(GrISSE-Dome)
「グリーンランド氷床コアに含まれる水溶性エアロゾルを用いた人為的気温変動の解読」
(科学研究費補助金 基盤研究(A) 代表:飯塚芳徳(北大低温研)、2014年度〜2019年度)
 将来の気温の変動を予想する上で、最もその効果の見積もりが不明な要素の一つが、大気中のエアロゾルが放射収支に与える直接、間接的な効果である。産業 革命以降の人為活動を起源とするエアロゾルの濃度、組成、化学形態を明らかにするため、グリーンランド氷床南東ドームにおいて浅層コアを採取し、そこに含 まれるエアロゾルの分析を行っている。


フロストフラワー形成に伴う化学成分分別

FF photo 「北極季節海氷上の海塩粒子:海氷からの粒子発生とフロストフラワー」
(科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究 代表:原圭一郎(福岡大理学部)、2013年度〜2015年度
 海氷の表面に発達する霜、フロストフラワーは、海水に含まれる化学物質を大気へ放出する可能性が指摘されています。いままで海塩は海水面から大気へ放出 されると考えられてきたのですが、フロストフラワーも海塩を大気へ放出すると最近いわれています。また、フロストフラワーが形成される時、海水中の化学成 分が選択的に濃縮され、大気中に放出されると大気中のエアロゾル成分に影響を与える可能性が示唆されています。フロストフラワーの形成過程とフロストフラ ワーを介した化学物質の大気への放 出過程を調べるため、2014年2〜3月にグリーンランド、シオラパルク村にて観測を行いました。
 現在、フロストフラワー中に含まれる化学成分組成を、国立極地研究所とともに分析しています。

関連ウェブサイト
 AVANGNAQ(犬ソリによる北極圏環境調査)


積雪の物理・化学構造特性
 積雪の物理・化学構造は、低温研において長く研究されてきた研究テーマである。近年の温暖化に伴う雪氷圏の積雪の変化、特に融雪過程に、積雪の微細物理 構造や積雪に含まれる光吸収性不純物の変化が大きく寄与していることが示唆され、詳しいメカニズムとそのメカニズムを再現する数値モデルの開発が必要とさ れてきています。このプロセスの監視とメカニズムを解析するため、低温科学研究所北側に観測露場に自動気象・積雪観測測器を設置するとともに、毎冬季シー ズンに積雪断面観測を実施しています。

 北大低温研共同研究課題「」(代表:青木輝夫(気象研))、「」(代表:山口悟(防災科研))、「」(代表:杉浦幸之助(富山大))

「北極域における積雪汚染及び雪氷微生物が急激な温暖化に及ぼす影響評価に関する研究」 SIGMAプロジェクト
(科学研究費補助金 基盤研究(S) 代表:青木輝夫(気象研)、2011年度〜2015年度

「次世代積雪物理量測定技術開発と精密積雪物理モデルに基づく雪氷圏変動監視手法の確立」
(科学研究費補助金 基盤研究(A) 代表:山口悟(防災科研)、2015〜2019年度

<成果論文>


大気から海洋へ沈着する微量元素

 鉄は海洋中の植物プランクトンに必須の元素ですが、海水中には高濃度に溶けることができないため、海水中には不足しがちです。この鉄の供給源の一つが黄 砂です。黄砂の風下にあるアラスカのランゲル山の頂上にある氷河から得られたアイスコアの分析、数十年間の黄砂の沈着量を復元しようとしています。また、 北海道やカムチャツカでエアロゾル観測を行い、親潮海域に沈着する鉄の季節変動を明らかにしています。

 大気から海洋へ沈着する鉄が、海洋の生物生産に与える影響を定量的に議論するときに必要な条件は、海洋に沈着したダストに含まれる鉄が海水に溶出できる 割合(溶解度)を正しく見積もることです。現在、多くの論文が0.1%から数10%まで様々な溶解度を報告しており、正しい溶解度や溶解度を変化させる要 因について活発な議論が続いています。私たちは、雪氷試料を用いて溶解度の変化要因について実験的に求めようとしています。


関連プロジェクトと論文




終了したプロジェクト

アムールオホーツクプロジェクト
 <グループ7>風送塵とオホーツク海の生物生産
 総合地球環境学研究所の「アムールオホーツクプロジェクト」は、オホーツク海と北部北太平洋における海洋生態系に対するアムール川流域の人間活動からの 影響を評価するプロジェクトで、2005〜2010年まで行われました。このプロジェクトの中で、私が担当したのは、大気を通してオホーツク海に供給され る物質を明らかにすることです。以下の調査を行いました。

(1)現在の物質の供給量を調べるためのカムチャツカと北海道でのでのエアロゾルサンプリング
(2)過去の物質の供給量を調べるため、カムチャツカでの氷河掘削とアイスコア解析
(3)大気から供給された物質からの鉄の溶出過程を調べるための、室内溶出実験

プロジェクトウェブサイト


W-PASS


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